駄菓子屋の夏日記型小説を公開しています。感想はこちらからどうぞ♪(注、下から上へと書き足していく方式を取っているので、まとめて読む場合は下からお読みください)
2010年分
11月15日
「雪は、どこから降ってきてどこへ消えていくのでしょうか」
境内の掃除中、目に映った雪を見てアヤメはポツリと呟いた。
手のひらに乗ったと思えば、次の瞬間には消えてしまっている。
ひやりとした感覚だけを残して、初めから存在しなかったかのように。
「つまらないですね。消えるためだけに存在するなんて、生産性のない無意味な存在です」
呟く声は、誰も聞くことなく降りしきる雪に吸い込まれていく。
雪は嫌い、頭が痛くなるから・・・・・・
ブレーキの音。赤く染まっていく視界。誰かわからない悲鳴。
「馬鹿みたいです、邪魔です、消えてください」
ばさり、と靴で思い切り雪を蹴り飛ばす。
その時、私の頭に積もった雪がばさばさと払われた。
「アヤメ君、何時間で雪だるまになれるかの実験でもしているのかね? それなら邪魔をしてしまったかもしれないが」
「先輩は本当に馬鹿ですね」 そう返そうとしたのに、口がうまく動いてくれない。
今まで冷たかった心が、先輩の言葉一つで暖かくなるなんて。
「・・・・・・本当に馬鹿みたいです」
小さく呟いて、先輩に向かって雪を蹴り上げた。
8月23日
ばさりっ!!と竹箒でフルスイングしても、飛んでいくのはその辺の空気とかこの神社のありもしないご利益とかだけだ。
だらだらと流れる汗を小袖でぬぐってから、アヤメは本殿の床にばさりと寝転がる。
夏休みだからってことでアピールも兼ねて境内に立ってるのに、誰も来ない。
いや、明先輩とかは来てくれるけどいつもどおり「いやぁ、相変わらず弁慶みたいに凛々しいね、アヤメ君は」とかまた適当なことをいうだけだし。
だんだん暑さでゆらめいてくる景色の中で、そもそもの元凶が通り過ぎていくのが目に入った。
人が来ないのもこんなことしなきゃいけないのも全部このダメ人間(一応父親)のせいだ。箒も持つ手に力が入る。
「このダメ人間・・・・・・もっとちゃんと仕事しろー!!」
起き上がると、その背中に照準をつけて思い切り箒をぶち当てた。
8月17日
ふと上を眺めると、どこまでも続いているように真っ青な空。
梢まで届きそうな風と、セミの鳴き声。
カモメは神社の階段に腰掛けると、一望できる町をぼんやりと眺めていた。
いろんな人と出会って、いろんな場所に行って。
いろんな思い出が出来て。
それが積み重ねられていくのは嬉しくて、同時に少し寂しくもあった。
新しい「私」は作られていくけど、同時にあったはずの「私」とは離れていってしまうから。
「でもそんな弱気な事を行ってたら、だめ。裕一さんたちに失礼だよね」
ずれていた大きなメタルフレームのめがねを直す。
「カモメチャーん!!」
下を見ると、大切な人たちがいた。
私は、勢い良く階段を駆け下りる・・・・・・
1月5日
駄菓子屋に休みはない……みたい(裕一さんが言ってました。)
お留守番を任されて一人で店番をしていると、店の前を二人の女の子が楽しそうに話しながら歩いていった。
どうやら学校が終わって帰るところらしい。そういえば……と思ってカモメは小さく首をかしげた。
「はわわっ!!」
首をかしげた拍子に眼鏡がずり落ちそうになって、慌てて指で押さえる。
小さくため息。いったん落ち着くと、さっきの疑問を頭の中でもう一度考えた。
私って学校に通ってたのかな……? 今年で17歳だから、通ってれば高校2年生になるけど……。
どうなのだろう? そう考えると、また少し不安が胸の中で広がった。
頭をぶんぶんと振ってその不安を打ち消そうとしたところでまた眼鏡がずり落ちそうになって、慌てて指で押さえた。
今度は大きくため息。なんだか疲れてしまった。
どうやら自分は要領の悪い性格らしい。
自己嫌悪に陥っていると、買い物から二人が帰ってきた。
どうやら今日はすき焼きらしい。自分の好物の一つだ。
……そんなゲンキンな事は覚えてるんだなぁ。そう思って小さく笑った。
1月1日
「あけましておめでとうございます。今年も非常に不満ですが、よろしくお願いしてあげます……」
「あけましておめでとう。今年も宇宙意志による運命の結びつきに期待しようか」
新年の晴れ晴れとした朝。ミケを含めた3人と1匹でおせちをつまんでいると、アヤメと明がよくわからない挨拶とともに居間に座った。
アヤメちゃんは神社の仕事をしてから直接来たらしく白と朱の袴、明先輩は相変わらずのラフな格好をしている。
「相変わらずですね、先輩は……お正月感がゼロじゃないですか」
「そんなことはないぞ、この計算しつくされた服装に正月を感じられないとは……失望したぞ! 裕一中佐!」
今年も適当な言葉をありがとうございます、それに微妙に階級昇進してるし。小さく心の中で呟くと、この駄菓子屋が続いていくことを願って黒豆を一粒食べた。
「この卵焼き・・・ですか? 黒こげになっている物体は何でしょうか?」
アヤメちゃんが不穏な表情でそう聞くと、ミツミとカモメの表情が少しひきつった。
ちなみにミツミがひきつっているのは、卵焼き(と思われるもの)を作った張本人だからであり、カモメがひきつっているのはそれがあまりにも美味しくないからだ。
しかし何故かミケだけはがつがつと美味しそうにその卵焼きらしきものをかじっている。
「むむ! ミケの勢いに負けてられないんだよ!」
ミケの勢いに触発されたアヤメが卵焼きにかぶりついた。
「――――!!」
次の瞬間、アヤメの表情がさっと青ざめる。
「大丈夫ですか! アヤメさん!」
「だ……駄目です……パタリ」
慌てているアヤメと畳に倒れてしまったアヤメを見て、ミツミは不思議そうに首をかしげた。
「隠し味にとっておきのネコノモトを入れたのに……なんで美味しくないんだろう?」
「……」
ネコのミケは美味しそうに卵焼きを食べている。そして人間のアヤメは倒れている。
そのことから一つの結論に達したミツミ以外の皆は、無言で卵焼きをミツミの口に詰め込んだ。
11月5日
「……」
何も記憶がない。ということは不安なことであり、それでいて心地よいことでもあった。
何も知らないからこそ、安心してこの場所にいることができる。
「……でも、暑いんですが」
――そう、でも今日のこの暑さは全然心地よくなかった。
本当に11月? と思わず聞いてしまいたくなるほどのかんかん照り。椅子に座っていると、汗で下着が張り付いて気持ち悪い。
そう思うと、目の前に置いてあるストーブも邪悪なものに見えてきて眼鏡越しに睨みつけた。
でもそうしたからってストーブが氷柱に変わるわけもなく、カモメはひとりでだらだらと店番を続けた。
11月4日
縁側から見る夜空には月と、そのそばでひとつだけ、ぼんやりと輝いている小さな星があった。
「……綺麗」
きっともう何回も見たことがあるんだろうけど、記憶のない私には月も星も初めて見るモノだ。
「手を伸ばせば、星だってつかめそうな気分だ」
「……え?」
となりから突然声が聞こえた。見てみると裕一さんが夜空に向かって両手を伸ばしていた。
「どこかで読んだ本に書いてあった言葉だよ。本当はすごく遠くにあるけど、それはひょっとしたら近くにあって気づいてないだけなのかもしれない」
私には裕一さんの言葉の意味がわからないで、少し首をかしげてしまう。
「カモメの記憶も、ひょっとしたら案外その辺に落ちてるかも」
少し笑った裕一さんは、そう言って私に笑いかけてきた。
私も、くすりと笑ってしまう。
……だったら、こうして手を伸ばしていれば、私の大切なものが何か見つかるかも。
そう思って、私も夜空に精一杯両手を伸ばした。
10月31日
「わあ、カモメちゃん♪ エプロンがラブリーだよ♪」
「……えっと…その……ラブリーって…」
小学生や中学生の子供たちが元気に歩いて行っている晴ればれとした朝。
私は妙にふりふりとしたエプロンを着せられて、ひきつった笑顔を浮かべていた。
何でこんなことになっているかというと、朝起きて知らない場所に混乱していた私をミツミさんが居間まで引っ張ってきて朝食が用意されてたからもらって、そのうえ帰る場所のわからない私に店の手伝いをしてくれるならここに住んでいい、ということまで言ってくれて今に至る。
あまりにも急速に事態が進展していて、自分自身も状況が理解しきれていない。
まあ、とりあえずそれは置いといて
「……この服はお願いですからやめてください」
「ええ!! 何で!?」
なんか驚かれてしまった。それからなぜか裕一さんが目をそらしているのですが、これは一体どういうことでしょうか?
とかなんとかごたごたはしていたけれど、なんだか楽しくて私は小さく笑顔を浮かべた。
10月30日
田舎のこの町の、それに加えて平日の昼時の場合この道はほとんど人通りはない。
今日は久しぶりに暑いからひしゃくで水を撒いていると、とつぜん、きゃっ! という小さな悲鳴が聞こえた。
声の方向を見てみると、メタルフレームの少し大きめの眼鏡をかけた少女が、頭から水をかぶってきょとんとしていた。ひしゃくの水がかかってしまったらしい。
「よく見てなくてごめん。服は大丈夫?」
「……えっと、はい……大丈夫です」
少女がそう言ってそそくさと通り過ぎようとしたとき、その足どりが急におかしくなった。
数歩後ろに戻って、突然ぐらりと体が後ろへ傾いた。
倒れそうになった少女を危ないところで受け止める。
はぁ、と裕一は小さくため息をついた。
腕の中の少女は、気持ち良さそうに寝息を立てていた。
「なんか厄介なことにならなければいいんだけどな……」
そう呟いてから、もう一度ため息をついた。
♭
「猫をもう一匹ならまだしも女の子を拾ってくるなんて、裕ちゃんも隅に置けないな〜♪」
「にゃ〜、にゃにゃ〜」
「そういうのじゃないから……」
隣であおってくるミツミとミケに一回づつデコピンをして黙らせると、少女の額に乗せているタオルを取り換えた。
見たところ眠っているだけのようだが、ひょっとしたら熱中症ということも考えられる。
見知らぬ少女に興味しんしんのミツミとミケとの二人プラス一匹で一日中少女を見守っていたが、よっぽど疲れているらしく結局今日は目を覚まさなかった。
10月29日
どうやら眠ってしまっていたらしい。
ミンミンと、セミの鳴く声が頭に響く。
「…………ん!!」
太陽の鋭い光が射してきて、開こうとした目を反射的に閉じた。
もう一度慎重に目を開くと、ちょうど真上に太陽が来ていた。
(―――森?)
上半身を起こして見ると、見たことのない森林が広がっていた。
あれ? そこで一つ、記憶に引っ掛かることがあった。
(じゃあ見たことのある場所って、どこだっけ?)
見たことのある場所を思い出そうとしたが、何故か一つも思い浮かぶ光景はなかった。
一滴の黒インクが落ちるように、カモメの胸にうっすらと不安が広がった。
そう考えると急にここにいることが怖くなって、ふらつく足を支えて前に歩きだした。
私の名前は水下カモメだ、憶えている。憶えているのに、何故か他の名前は一つも思い出せない。
しばらく歩いていると、急に視界が開けた。地面が石で舗装されていて大きな鳥居があるところを見ると、どうやらここは神社らしい。
見覚えのない神社、そして鳥居から見える町並みも、やはり全く見覚えのないモノだった。
状況を理解できずにぐらつく頭を抱えて、水下カモメは階段を下りた。
10月28日
一人で店番をしていると、うにゃーーーー!! というミケの叫び声が居間の奥から聞こえてきた。
どうしたのかと思って見てみると、気持ち良さそうに眠っているミツミがミケの足にのしかかっていた。
どうやら寝返りをうったちょうどその場所に、ミケの足があったようだ。
「にゃーー!! にゃにゃ!! にゃ〜〜〜〜!!」
必死に抜け出そうともがいているが、がりがりと爪が畳を傷つけるだけで足が抜けそうな様子はない。
「ほらほら、助けてやるからこれ以上爪を立てるな」
これ以上畳を傷つけられても困る。ミツミの下から引っ張りだすと、ミケはミツミの顔の前で手を構えた。
「にゃっ!!」
ぺし、と手のひらでミツミのはなをはたくと、満足したのかもぞもぞとこたつの中にもぐりこんでいった。
「はう〜……ミケちゃんストラップ〜……むにゃむにゃ」
相変わらず幸せそうなミツミをとりあえず思いきり転がすと、また店番に戻った。
な、なんで〜!! という叫び声と壁にぶつかる音がしたが、そっちのほうは見ないことにした。
10月27日
今日の天気は雨だ。雨は嫌いだけど、こうやって人としては最低としかいいようがない明先輩と一緒に帰れているのだから、とりあえずは雨に感謝することにした。
まあつまりは私が傘を忘れてしまったから相合傘になっているわけなのだけれど。
「あいかわらず二宮金次郎と同じくらい美しいね。アヤメ君は」
二宮金次郎と同じくらい美しいってどういう意味? そう心の中で突っ込むが、まあ先輩のいうことのほとんどは適当だから気にしないことにした。
「今日も適当な言葉をありがとうございます。感謝感激雨あられです」
「もちろん。俺の体は97%が適当、あとの3%かっこよさでできているからな」
その言葉に私は少し驚いた。どうやら自覚はあるらしい。
「先輩は基本的に適当で構成されているんですね。それなら今までの変な行動も納得です」
「ふむ、出来れば3%のかっこよさを見てほしかったな」
「またまた、先輩は適当な言葉が上手ですね」
「いや、今のは本気だったのだが……」
そんな事を話していると、あっと言う間に神社についてしまった。
少し寂しい気持ちを隠して、私は先輩に小さく手を振った。
10月15日
今日は天気がいいから倉庫の整理をしていると、突然ビニール袋の底が破れて大量のおはじきが地面に零れ落ちた。
パチパチと、たがいに当たって弾き合ってより広い範囲へと散らばっていく。
大小さまざまなおはじきが光を乱反射して輝いている様は、丸でたくさんの宝石が散らばっているように綺麗だった。
さっきまで眠っていたミケもおはじきの落ちる音で目が覚めたらしく、寝ぼけ眼で近づいてきておはじきに興味を示していた。
「一ついるか?」
おはじきを珍しそうに見ているミケにそう聞くと、にゃっ、と言っておはじきを一つ口にくわえて歩いて行った。
10月14日
このところ寒い日が続いていたが、今日は珍しく暖かかった。
ミツミもストーブにくっつかず、縁側でミケとごろごろしている。
そして自分はというと、その隣でチラシを眺めながらスーパーの特売商品を探していた。
ちなみにミケとミツミは言葉通り、本当にごろごろしている。
ごろごろと縁側を転がっている。
今日は襟付きのシャツにスカートという服装だからあんまり転がるとまずいことになるが、誰も見ていないからまあオーケーなのだろう。
「あああ、目が回るよ〜、裕ちゃん〜」
ごろごろごろごろ
「あう」
裕一の脇腹に当たったところでようやくごろごろは止まった。
「邪魔だからもう一度転がるべし」
横にいるミツミを思いきり転がすと、勢いよくごろごろと逆戻りしていった。
「裕ちゃんの人でなし〜」という声と「ふぎゃっ!!」という鳴き声の後に縁側から落ちる音がしたが、そちらのほうは見ずに広告を眺め続けた。
10月13日
買い物の帰り道、ミツミが何か見つけたのか急に足を止めた。
「ねえねえ裕ちゃん、何か人が集まってるよ」
ミツミが指さしている方向を見てみると、確かに人だかりができていた。しかも中心からなぜか奇声が聞こえてきている。
近づいて見てみた瞬間、見るべきではなかったと後悔した。人生の中で会いたくない人のランキング3位にには入るであろう厄介もの。明先輩、あだ名は先輩だ。
顔はいいが、いつも変な行動ばかりするせいで今のところ彼女だけでなく友人もいないに等しい。
現在は奇声を発しながら人の輪の中をぐるぐると回っている。
「何してるんですか、先輩……」
困ってる人たちを代表して声をかけると、先輩は、何を言ってるんだ、という顔でこっちを見てきた。
「もし町に自分がチンパンジーだと勘違いしているかっこいい青年がいたらみんながどう思うかを研究していたに決まってるだろう」
「わあ!! すごい研究だね、明君!!」
「ミツミ君は解ってくれるか。それに比べて裕一少佐は……」
「誰が少佐ですか、誰が」
そんなくだらないことを話しているうちに周りの人たちはどこかに行ってしまっていた。
先輩と同じ人種だと思われたかもしれない。
そう考えると、周りの目が好奇の目に見えてきて、その原因である先輩を少しだけ睨んだ。
10月12日
家の大黒柱をそっと触って、なつかしい、とミツミは思った。
ずっと昔から一緒にいるから。そばにあるもの、としてではなく、私と一緒のものとして。
伯母がいなくなって苦しかった時、この柱が私を支えてくれていた。だから、笑うことはできなかったけど苦しくはなかった。
そして、今は彼がいて、笑うことができるようになった。
これからも、この幸せがずっと続けばいいと思う。
――そして、あわよくば私が彼についている唯一の嘘。それがずっとばれなければいいと、私は願う。
10月11日
「にゃにゃにゃにゃにゃ!!」
「このこのこのこのこの!!」
買い物から帰ってみると、店の中央でミケとアヤメちゃんが何かを取り合っていた。
「はわわわ、けんかはダメだよ」
ミツミがそれを止めようとしているが、あまりの一人プラス一匹の素早さに手が出せなくなっている。
よく見ると取り合ってるのはミツミ特製のミケストラップ。
昨日の夜徹夜で作って
「じゃじゃん!! 特製のミケちゃんストラップだよ!! 量産して売り出せば売り上げアップ間違い無し!!」
とかいいながら自慢げに胸を張っていたのを覚えている。
しばらくすると、ミケの素早いミケパンチにアヤメちゃんが押され始めた。
「こうなったら……ほら、ミケ!! マタタビだよ!!」
アヤメちゃんがなぜ持っているのか懐からマタタビを取り出すと、空中に放り投げた。
「にゃおん!!」
思わず華麗な空中キャッチでマタタビを取ってしまうミケ。
素早くストラップをつかみ取ると、アヤメは店の外に飛び出した。
「ふふん、この山神アヤメに勝とうなんて百年早いんだからね!!」
逃げていくアヤメをひとにらみすると、敗北感に背中を丸めたミケはマタタビをもって家の奥へと歩いて行った。
10月10日
山神神社の神主、山神義正さんにインタビュー♪
質問1、お賽銭に入れるお金は多ければ多いほどご利益も良くなりますか?
回答1、1円玉でも5円玉でも500円玉でもご利益は同じです。しかし金属ではなく紙のお金を入れてくださると、神社の対応は変わるかもしれません。
質問2、どうしてここのおみくじは凶しか出ないのですか?
回答2、意地になってたくさん買ってくれる方がいるからです。そして、そっちのほうが引く人を見ていて楽しいからです。
質問3、最後の質問ですが、バナナは遠足のおやつに入るのでしょうか?
回答3、大変難しい質問ですが、お答えしましょう。バナナはおやつに――
――コトン
アヤメはお茶をおくと、袴のしわに気をつけて本殿の床に座った。
「お父さん、何もないところになにぶつぶつ言ってるの? ひょっとしてもともとおかしい頭がさらにおかしくなった?」
「いや、もしインタビューがあったらどう対応しようかと思ってな」
「……」
「……」
ほとんど人のいない参道を見て二人して遠い眼をすると、一口お茶をすすってから小さくため息をついた。
10月9日
買い物を終えて商店街を歩いていると、自分より頭一つ分くらい小さい女の子が隣に並んできた。
「こんにちは、今日もニート街道まっしぐらですね、裕一さん」
「……ニートじゃなくて駄菓子屋の店主だから。もういい加減覚えてね、アヤメちゃん」
感情を抑えてそういうと、アヤメちゃんは心底不思議そうな顔で首をかしげた。腰まであるポニーテールが少し揺れる。
この毒舌少女は山神アヤメ、山神神社の娘であり、15歳にして巫女を務めている。
そしてうちに駄菓子を買いに来る常連でもある。
「あ、そういえばリクエストにあったねり梅を取り寄せといたから、今度買いに来てね」
話題を変えるためにそういうと、アヤメちゃんは嬉しそうに飛び跳ねた。
「わあ、ありがとうございます。裕一さんなんかでも少しはいいところがあるんですね」
お礼の言葉がそれか……そう言おうとしたが、これで悪意はないのだからどうしようもない。どうしようかと考えていると、いつの間にか神社までついていた。
「じゃあまたね、アヤメちゃん」
「はい、ではまた」
ぺこんと頭を下げると、アヤメちゃんは神社への階段を軽い足取りで登っていった。
帰るために神社に背中を向けたところで凄く疲れた気がして、肩をがっくりと落とした。
10月8日
「わあ!! ストーブだね、裕ちゃん!」
「そろそろ店内も寒くなってくるからな。それにミツミが寒がりだからな」
店の真ん中に置いた石油ストーブに灯油を入れながらそういうと、ミツミが嬉しそうな表情でマッチを持ってきた。
どうやら灯油を入れ終わったらすぐに点ける気らしい。
「これで寒いのから解放されるね! ミケ!」
「うにゃ」
気のせいかもしれないが、ミケの顔もいつもより若干緩んでいる気がした。猫にとってもやっぱりストーブが出るのは嬉しいらしい。
「とと、あれっ?」
灯油を入れ終えて火をつけようとするが、何回マッチを近づけてもストーブに火がつかない。
しばらく色々試してみた結果、どうやらストーブの芯がダメになってしまっているようだった。
「うにゃ〜……」
「うう、寒くて死んじゃうよ〜……」
―――そして、ミケとミツミが一気に暗い表情になったのは、まあしょうがない話だろう。
10月7日
カラン、と氷水の中に入っているラムネが音をたてた。
ミケとミツミは店の奥の居間で眠っている。
平日の昼時はほとんど客が来ないから店番は一人で済む。
「そろそろラムネも季節外れになってきたな」
昼の誰もいない店内。ぼんやりとつぶやいたが、返事は返ってこない。
桶の中からラムネを一本取ると、太陽の光に透かして見た。
ビンの素材がガラスからプラスチックに変わってしまったせいで、昔のようにキラキラと輝く不思議な感覚はそこにはなかった。
昔からあるものも、少しずつ変わっていってしまう。そう考えると、少し寂しくなった。
10月6日
「あれ? 何か鳴き声がするよ?」
そういってトテトテと走っていくミツミを慌てて追いかける。
今日は水ものを買い込んだから、腕がミシミシと悲鳴を上げている。
「ほら、裕ちゃん、こっちこっち」
声のするほうを見てみると、ちょうど道の隅のほうに三毛猫が丸まっていた。
「飼うのはダメだからな」
おそらくこの先繰り広げられる会話を先読みしてそういうと、ミツミはほおを膨らませた。
「こんなに可愛い猫だよ!! しかも三毛猫だよ!!」
「にゃおんにゃおん!!」
なぜか猫にまで非難されている気がするが、気のせいだろうか?
「とにかく猫はダメ。三毛猫でも駄目なものはダメだから」
「裕ちゃんがダメって言ったって連れて帰るから!! ねえ、猫ちゃん」
「にゃおん!!」
「うがぁ!!」
♭
結局猫は連れて帰ることになって、二人プラス一匹で話し合った結果、名前はミケというありきたりの名前になったのだけれど、まあそれはよしとしよう。